平成15年度決算審査措置要求決議 (H17.6.7  参議院決算委員会)


 内閣及び会計検査院は、本決議を踏まえ、適切な措置を講じ、その結果を参議院決算委員会に報告すべきである。

 平成15年度決算検査報告の指摘について
 平成15年度決算検査報告の指摘内容には、「国民年金事業に使用する金銭登録機の購入契約が会計法令の趣旨に反し適切でなかったもの」などが見られ、また指摘件数及び指摘金額は「不当事項」219件、126億余円、「意見を表示し又は処置を要求した事項」11件、「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」47件、303億余円、「特に掲記を要すると認めた事項」8件、合計285件、430億余円となっており、既往30年間で指摘金額としては過去2番目に多いものとなっている。
 政府は、検査結果を踏まえ、会計規律の保持、関係職員の資質向上など、効率的な予算執行及び会計事務の適正な処理に向けた措置を講ずべきである。
 また、効率的な予算執行のため、政策評価の活用、内部監査体制の強化が必要であり、関係省庁が協議し、政策評価、内部監査の強化に向け具体的措置を講ずべきである。
 随意契約の基準を悪用した事件が発生しているが、随意契約については、入札公告等が行われない、特段の理由もなく少額の調達に分割し随意契約とする、随意契約によるものの大きな部分が委託契約で再委託、再々委託が繰り返され効率性が損なわれている等の問題が存在する。本委員会の指摘を受け、政府が随意契約の透明性向上等に向けた方策を取りまとめたことは評価できる。政府は着実に同方策を実施すること等により、随意契約に係る諸問題の解決に取り組むべきである。

 特別会計の事務事業等の見直しについて
 現在31ある特別会計は、その歳出総額が17年度当初予算で411兆余円、純計額でも 205兆余円に達しており、その規模は一般会計を大きく上回っているが、透明性の欠如、不要不急の事業の実施、多額の不用、剰余金、積立金の発生、政府出資法人等への支出等に係る問題等、多くの問題点が存在する。
 とりわけ特別会計の不用、剰余金の抑制は喫緊の課題であり、政府は、各特別会計の性格に応じ、不用、剰余金を抑制するとともに、一般会計からの繰入れも抑制するなどの措置を講ずべきである。
 また、産業投資特別会計においては、NTT株式売却収入を活用した無利子融資制度を原則廃止することとしたが、さらに、償還終了時の同特別会計社会資本整備勘定の廃止等の具体的措置について調査・検討する必要がある。さらに、産業投資特別会計から研究開発法人への出資状況とその有効性・効率性について調査・検討する必要がある。
 農業経営基盤強化措置特別会計においては、歳入額に対する歳出額の比率が著しく低く、多額の決算剰余金が生じている。同特別会計における各事業の執行状況と決算剰余金の使途について調査・検討する必要がある。
 空港整備特別会計においては、空港建設を始めとする空港整備事業等が行われている。関西国際空港二期事業の2007年限定供用決定の前提となった需要予測及び採算を確保するためには、関西国際空港株式会社の安定的な経営基盤の確立に向けた経営改善努力が不可欠になっている。政府は、同社の経営改善及び収益向上に取り組み、その有効性を検証すべきである。

 特別会計における予算積算と執行の乖離について
 (1)電源開発促進対策特別会計
 電源開発促進対策特別会計電源立地勘定において、電源地域産業育成支援事業補助金における「電気のふるさとじまん市」に関する車内広告、パンフレットに係る経費、電源地域振興指導事業に関する一部の委員会等の経費及び原子力なんでも相談室の出張説明旅費等の経費が予算参考書には記載されていたものの、実際には執行されていなかった。
 また、原子力の広報に関するホームページの作成に係る経費については、予算参考書における見積りと執行との間に乖離が生じていた。
 政府は、これらの点について、予算執行の経緯や実態を調査するとともに、具体的改善策を講ずべきである。
 (2)財政融資資金特別会計
 財政融資資金特別会計においても、数年にわたり財政投融資問題調査研究経費において、執行実績と異なる研究会の名目で経費が計上されていた。政府は、このような事態が生じた経緯と同特別会計の予算執行の実態を調査するとともに、具体的改善策を講ずべきである。
 (3)厚生保険特別会計、国民年金特別会計
 厚生保険特別会計、国民年金特別会計においても、「年金週間」と関連した予算計上において、数年にわたり実際には行われていないイベントの経費が計上されていた。政府は、このような事態が生じた経緯と両特別会計の予算執行の実態を調査するとともに、具体的改善策を講ずべきである。

 国が公益法人等に補助金等を交付して設置造成させている資金について
 国は、一部の公益法人等の団体に補助金等を交付して資金を造成させ、公益性の高い事業を継続して行わせている。しかし、平成12年度決算検査報告は、この資金の実績等について検査したところ、設置当初から事業の実績が全くなかったものや、設置後に資金を取り巻く環境が変化したにもかかわらず資金が活用されないままになっているものが相当数見受けられた等の問題があると、掲記している。
 当該検査に関して会計検査院は、資金の具体的改善状況を含めて、資金の有効性及び効率的使用についてのフォローアップの必要性について言及しており、前回検査から3年以上経過した今般、(1)当該資金の設置、保有状況、(2)運営状況、(3)資金の制度の見直し体制の整備状況等について、改めて検査する必要がある。
 政府は、家畜防疫体制の強化を図るなど、食の安全・安心の確保を図るための施策を推進し、生産者の経営の安定の確保を図るとともに、食の安全・安心に関する知識の普及・啓発に取り組むものとする。

 ITシステムの見直しについて
 現在、政府部内には、厚生労働省の「社会保険オンラインシステム」を始めとするレガシー・システムが合計36あり、平成17年度予算で約3,572億円の経費が計上されている。また、このほかに、「人事給与システム」や「災害管理システム」などの多くのITシステムがある。
 これらのITシステム、とりわけレガシー・システムの調達は、技術的専門性の高さから、その多くがシステム事業者任せになり、システムの詳細がどうなっているのか、各府省側でその内容の把握が不十分なまま特定事業者との間で随意契約が繰り返され、その結果、不透明な契約内容、割高な契約額、システム事業者が開発したソフトウェアの著作権の帰属、システム開発費を分割払としたことによる多額の残債の存在、政府全体として平成15年度におけるIT調達にかかわる決算額を確定することのできない事実等の多くの問題が生じている。
 一方、会計検査院の「決算確認システム」では、その運用業務委託契約の業務内容を全面的に見直すとともに、契約方法を随意契約から一般競争契約へ移行させた結果、委託経費がそれまでの約30分の1に削減できたように多大の成果も見られる。
 政府は、今後、レガシー・システムを含む77のITシステムについて「業務・システム最適化計画」を作成しシステムの全面見直しを進めていく中で、システム事業者が開発したソフトウェアの著作権の各府省への帰属の実現、システム開発費を分割払としたことによる多額の残債問題の解消等に努め、汎用コンピュータのオープンシステム化、データ通信サービス契約そのものの見直し、随意契約から競争契約への移行等の改善を図るとともに、当該調達にかかわる決算内容の検証・評価を厳正に行うべきである。
 また、会計検査院は、以上の観点に留意して会計検査を実施すべきである。

 警察における捜査費等の不正流用疑惑について
 捜査費は、犯罪の捜査等に従事する捜査員の活動諸経費及び捜査等に関する捜査協力者に対する諸経費などであるが、近年、北海道警察、福岡県警察等においてその不正流用が相次いで発覚している。
 平成14年度決算審査においても、この捜査費不正流用問題に関して多くの質疑応答が行われ、その結果、「内閣に対する警告」に、「北海道警察、福岡県警察等において、捜査費等の使用に関して事実と異なる会計書類が作成される等の不適正な予算執行、組織的な裏金疑惑が相次いで発覚し、警察に対する国民の信頼を著しく失墜させたことは、極めて遺憾である。平成8、9年度決算に対する本院の警告を受け、警察改革要綱に基づく監察体制の整備等の諸施策を推進するとしたが、このような事態が生じたことを政府は重く受け止めるべきである。政府は、これらの不適正事案や疑惑の早期徹底解明に努め、関係者の処分など厳正に対処するとともに、警察庁の指揮監督の下、すべての都道府県警察を対象として監査の充実強化を図るなど、この種事案の再発防止及び警察に対する国民の信頼回復に万全を期すべきである。」と盛り込まれたところであるが、度重なる本院の警告決議を受けながら平成15年度の決算検査報告の中で、「極めて憂慮すべき事態」とまで特記された不正経理の問題は、国会及び会計検査院の監査機能を否定しかねないゆゆしき事態である。さらに本年に入って、現職警察官の内部告発により新たに愛媛県警察の捜査費等の不正流用疑惑が発覚した。
 政府及び会計検査院は、改めて捜査費等の不正流用疑惑の徹底解明に向け愛媛県警察ほか、未調査都府県警察に対し、監査を実施する必要がある。警察庁は、都道府県警察の監査及び会計検査院の実地検査に当たって、情報開示、捜査員との面談など、心証が得られるための協力を指導すべきである。また、不正疑惑に関する関係者の処分などに厳正に対処し、再発防止及び国民の信頼回復に万全を期すべきである。

 防衛庁における燃料入札談合事件について
 公正取引委員会は、平成11年10月、防衛庁調達実施本部が発注した自衛隊基地等で消費される自動車ガソリン、灯油、軽油、A重油及び航空タービン燃料の各石油製品の入札に関して、独占禁止法に違反する犯罪があったとして、石油会社11社を告発し、同年11月には、排除勧告を行うとともに、調達実施本部に対しても、入札における公正かつ自由な競争を確保し、入札制度の適切な運用を行うことなどを要請した。
 本年1月、防衛庁は、本件談合に関し不当利益があったと考えられる11社に対し合計約141億円の返還請求を行ったが、各社は、いまだ返還に応じていない。
 返還に応じない場合、防衛庁は不当利得返還請求訴訟を起こし国損の回復を図るべきである。
 
 地方財政計画の計画額と決算額の乖離について
 地方財政計画は、地方自治体が標準的に歳入・歳出すると見込まれる地方税収入や人件費、行政経費などの総額を算出するもので、交付税の法定率だけでは歳入と歳出の差額が生ずる場合に、その財源不足額は地方交付税の増額や地方債の増発等によって措置されている。
 しかし、地方財政計画の歳出項目ごとの計画額と決算額が近年大きく乖離している。平成14年度の地方財政計画額をその決算額と比較すると、例えば、「投資的経費(単独)」では、約15.7兆円の計画額に対して決算額は約10.6兆円にとどまり、計画額は決算額に比して約5.1兆円の過大計上となっている。これに対して、枠的に計上される「一般行政経費」では、約20.0兆円の計画額に対して決算額は約26.9兆円に上り、計画額は決算額に比して約6.9兆円の過少計上となっている。また、「給与関係経費」も、約24.5兆円の計画額に対して決算額は約25.9兆円に上り、計画額は決算額に比して約1.4兆円の過少計上となっている。
 このような計画額と決算額が乖離している現状に対して、財務省は、地方財政計画の「投資的経費(単独)」等の過大計上が給与関係経費等の不適正な支出の背景、さらには、地方交付税の肥大化につながっており、その是正・削減は喫緊の課題であると主張し、総務省は、経常的経費と投資的経費のプラス、マイナスは見合っており、投資的経費だけが過大計上であるとの主張は受け入れられず、仮に是正するならば一体的に是正すべきもの等と主張している。
 政府は、国民に対する説明責任を果たす観点から、地方団体の決算の状況を十分調査し、地方財政計画の計画額と決算額の乖離の縮小に努め、地方財政計画の適正な計上に努めるべきである。

 地方公務員の厚遇について
 一部自治体の地方公務員が通常の給与以外の不合理な手当や福利厚生などにより厚遇を受けているとの批判が高まり、全国的な問題となった。
 地方公務員の特殊勤務手当については、(1)国家公務員においては設けられていない特殊勤務手当、(2)他の手当又は給料で措置される勤務内容に対して重複の観点から検討を要すると思われる特殊勤務手当、(3)月額支給等となっている特殊勤務手当が、多数の自治体において存在することが総務省の調査により明らかになった。
 また、地方公務員の福利厚生については、報道などで、一部の自治体において、職員の互助組織を介在させることにより、所定の給与等とは別に、退職給付金や祝い金などの現金給付、旅行券や家電製品などの物品給付という様々な形で公費が個人に給付される例が多くあることが明らかにされた。
 これらの特殊勤務手当や福利厚生などには、住民の理解が得られないものや、制度の趣旨に反するものも見受けられる。
 また、給与が保障されている病気休暇の日数等についても、民間企業等との格差が指摘されている。
 政府及び会計検査院は、地方自治の本旨を尊重し、地方自治体の行財政権を損なわないよう配慮しつつ、地方自治体における福利厚生の実態並びに休暇制度の実態及びその国・地方の格差について、特殊勤務手当と同様に調査をする必要がある。

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 公務員の研修施設の在り方について
 主に国家公務員を対象とした研修に関し、国家行政組織法第8条の2において、国の行政機関には、法律又は政令の定めるところにより、施設等機関として文教研修施設(これらに類する機関及び施設を含む。)を置くことができる旨定められている。
 国立学校を除く文教研修施設については、中央省庁等改革基本法において「国の行政機関としての必要性を見直し、その結果に基づき、民間事業への転換をはじめ、民間若しくは地方公共団体への移譲若しくは廃止又は府省の編成に併せた統合を推進するほか、行政機関の職員のみを対象とする研修施設以外のものの独立行政法人への移行等により、その運営の効率化を図るものとする」とされた。これを受け、水産大学校等の機関はすべて独立行政法人となったが、民営化、統廃合は全く行われていないのが実情である。なお、平成16年12月の行政改革推進本部決定において、海技大学校・航海訓練所・海員学校の3機関につき、海技大学校と海員学校を統合するなどとされている。
 公務員の研修施設においては、そのほとんどが附帯して宿泊施設やグラウンド、テニスコート、体育館、図書館等の施設を有しており、類似の目的を有するのに大学校と学校の2機関に分かれていたり、研修に携わる職員が少数であるのに対し複数の指定職を置いたり、さらに国家公務員以外の地方公務員や民間人が主な研修対象者となっている施設が存在したり、その運営に不透明な点が多い。また、これらの国家行政組織法上の施設等機関としての文教研修施設以外に、本省の内部部局や地方支分部局において職員の研修を行うための独自の研修機関を設置し、文教研修施設と同様に、宿泊施設やグラウンド、テニスコート、体育館、図書館等の施設を有しているものもある。
 政府は、国の行政組織等の減量・効率化を推進するに当たり、研修施設の職員数の削減、組織の統廃合・民営化、国有財産としての施設の縮小など、行政改革の観点から、すべての研修施設を総点検すべきである。さらに国家公務員の研修の在り方についても、抜本的に見直すべきである。

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 独立行政法人の業務運営等の状況について
 平成13年4月以降、特殊法人等の独立行政法人化等により法人数は増加を続けているが、一部の独立行政法人において、著しく不適正な会計処理が行われるなど会計面での規律性及び内部監査体制の欠如等が懸念される事態が生じている。
 政府は、独立行政法人の監査の一層の徹底強化や業績評価の一層の厳格化に努めるべきである。

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 ODAにおける不正事案について
 昨年9月、コスタリカへのODA事業「テンピスケ川中流域農業総合開発計画」で、同国政府機関「国土地理院」への再委託料として(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)に支払われた約231,000ドル(約2,500万円)のうち、コスタリカ側に支払われた約59,000ドルを除いた約172,000ドル(約1,800万円)が政府機関の口座に入金されないまま使途不明になっていることが、独立行政法人国際協力機構(JICA)の調査で明らかになった。JICAは、「不正又は不誠実な行為」があったとして、同年12月、指名停止6か月の処分を行った。なお、PCIは、コスタリカ側に支払われた約59,000ドルを除いた約 172,000ドル(プラス利息分)を今年1月JICAに返還した。
 上記事案を受けてJICAは、PCIが過去5年間に受注した類似の案件について調査を実施し、本委員会においてその結果を聴取した。それによれば、調査の結果4か国4案件において実態と異なる再委託契約を行いJICAに対して不正な請求を行っていたことが新たに判明したことを踏まえて、JICAはPCIに対して新たに9か月の指名停止措置をとり、不正請求額合計1,527万円相当及び利息分の返還を請求した。
 ODAの実施に際して、再度開発コンサルタント会社の不祥事が起きることのないよう、外務省は、再発防止のためにより透明性の高い事業を遂行するように指導監督すべきであり、またJICAは、再委託契約手続の各段階を見直して、再委託先に関する情報のJICA在外事務所への報告の徹底、入札時の同事務所員による立会いの励行、再委託契約にかかわるすべての会計書類のJICAへの提出、JICA在外事務所が設置されていない地域への現地調査団派遣など監督体制強化の措置を講ずべきである。
 PCIを始めとするODAに関するコンサルタント会社への委託業務についての会計検査については、過去に不正事案がなかったかなどの実態を十分に調査した上、実施すべきである。

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 草の根・人間の安全保障無償について
 グローバル化が急進する中、感染症、環境問題といった国境を超える問題が世界中で広がっている。また、多発する地域紛争や経済的な要因により、難民や国内避難民などの非自発的な人の移動が大きな問題となっている。こうした問題を克服するためには、人間の生存、生活、尊厳を直接に脅かす深刻かつ広範な脅威から人々を保護し、個人やコミュニティが自立するための能力を育成することが必要である。これが「人間の安全保障」の考え方であり、我が国は、人間の安全保障分野における取組を推し進めるために、1999年3月国連に「人間の安全保障基金」を設置し、積極的に支援を行ってきた。
 平成15年度予算から、開発途上国の現地住民に直接裨益するきめ細かな援助として高い評価を得てきている草の根無償資金協力(平成14年度予算100億円)に、人間の安全保障の考えをより強く反映させ、「草の根・人間の安全保障無償」として、主にNGOを被供与団体とし、迅速な実施が求められる緊急の支援にも対応していくこととした(平成15年度草の根・人間の安全保障無償資金協力予算150億円)。
 供与限度額の原則1,000万円以下は草の根無償資金協力時と変更はないが、最大供与額を従来の5,000万円から1億円に引き上げた。
 政府は、15年度から実施した「草の根・人間の安全保障無償」について、それまでの草の根無償と比較して、その意義、効果等について調査・検討する必要がある。

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 NGOの業務委託について
 平成13年度決算における内閣に対する警告において、政府開発援助の効率的かつ効果的な実施を図ることを求め、さらに平成14年度決算に関する要請決議においては、政府開発援助を適正かつ効率的に実施するため、国際協力活動に取り組む非政府組織との連携・支援・対話を拡充し、その育成・強化を図ることを政府に要求している。
 現在、NGOに対する支援には、外務省の日本NGO支援無償やJICAの委託事業である草の根技術協力などがあるが、外務省は、ODAとNGOの連携を示す手段として、NGOへの業務委託の実績額(決算ベース)を毎年度公表すべきである。

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 スマトラ沖地震に対する緊急援助の実施状況について
 昨年末に発生したスマトラ沖地震及びインド洋津波被害に関し、我が国は5億ドルを限度とする協力を関係国及び国際機関等に対して無償で供与することを決定した。このうちの半分の2億5,000万ドルはユニセフ、世界食糧基金等の国際機関経由で、残りの2億5,000万ドルはインドネシア、スリランカ等の被災国に直接送金されている。しかし、後者の二国間供与分については、資金が相手側に届いているにもかかわらず、調達がまだ実施されていない部分がある。
 政府は、今後の緊急支援においてその趣旨が生かされないというものがないよう、スマトラ沖地震に関し緊急支援として供与した援助について、その実施状況を調査する必要がある。

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 外務省直轄の無償資金協力項目、外務省・財務省が所管している国際機関出資・拠出項目、各省庁
 技術協力等の項目の個別案件事後評価について
 ODAについては、効果的・効率的実施の観点から評価の充実が図られてきている。しかし、現在までのところ、事後評価が十分になされていない分野もある。
 政府は、ODAにおける外務省直轄の無償資金協力項目、外務省・財務省が所管している国際機関出資・拠出項目、各省庁技術協力等の項目について、その使用状況、効果等を調査する必要がある。
 特に、OECD・DAC(開発援助委員会)や世界銀行が提示している国際基準に準ずる事後評価制度を個別案件ごとに幅広く実施すべきである。

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 国際機関等への資金拠出に関する情報開示について
 国際機関への出資・拠出は、平成15年度において4,314億円となっているが、各国際機関の事業実績、財務状況等についての情報が十分開示されていない。
 国際機関に対する資金拠出に当たっては、国際機関側から適切な報告を求め、十分な情報開示に努めるとともに、拠出の時期・方法を精査した上、滞留金や事業執行の状況を踏まえた適切な予算要求を行うべきである。

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 在外公館における不適正な出納事務について
 平成12、14及び15年度決算検査報告に、在外公館の職員による公金の着服など、在外公館における会計経理が適正を欠くと認められる事案が掲記されていた。
 さらに、平成15年度決算検査報告では、会計検査院が検査した21公館(在カンボジア、在モンゴル、在ラオス、在アルゼンチン、在エクアドル、在コスタリカ、在パナマ、在ホンジュラス、在オランダ、在ブルガリア、在ルーマニア、在トルコ、在チュニジア、在リビア各日本国大使館、及び在シアトル、在シカゴ、在デトロイト、在エドモントン、在トロント、在バンクーバー、在モントリオール各日本国総領事館)において、歳入徴収官、資金前渡官吏及び検査員が自ら行うべき重要な事務が当該者により行われていない、補助職員の範囲及びその事務の範囲が明確でないまま公金が取り扱われている、会計事務処理が適正に行われていない事態があった。また、在ラオス大使館及び在エドモントン総領事館においては、現金が領得される事態があった。平成16年10月28日、会計検査院は、外務大臣に対し、在外公館における出納事務について、内部統制等を十分機能させることなどにより、その適切及び適正な執行を図るよう是正改善の処置要求を行った。
 外務省は、外務省改革の一環として、特別集中査察を平成13年度から平成15年度末までに130の在外公館に対して実施した。前述の会計検査院が検査した21公館のうち 17公館ではこの特別集中査察が実施されていたが、会計検査院から指摘された事態を含め必ずしも是正されるには至っていなかった。
 外務省は、内閣官房報償費をめぐる不祥事以来、綱紀粛正と意識改革の必要性が再三指摘されながら、会計検査院から更なる指摘を受け、また外務省改革に取り組んでいる中、職員による公金の着服が行われたことは、極めて遺憾である。外務省は、出納事務手続について会計検査院から受けた指摘を厳粛に受け止め、事務の範囲の明確化、会計法令の遵守の一層の改善に取り組み、内部統制、相互牽制が十分機能するよう努めるべきである。

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 財団法人の破産について
 外務省所管の財団法人国際教育情報センターにおいては、平成16年9月の外務省の立入検査により債務超過となっていることが判明し、同年11月、破産宣告を受けた。原因として、長引く不況により企業等からの会費、寄附収入や受注が減少したことや、理事長や事務局長の高齢化による事務の停滞等、同センター自身の運営体制の問題が挙げられるが、そもそも、外務省が定期的な立入検査を行ってきたにもかかわらず基本財産の取崩し等に気付かず、指導監督が十分でなかったことは、極めて問題である。
 文部科学省所管の財団法人日本学会事務センターにおいては、財務状況が長年にわたって徐々に悪化して債務超過に陥り、平成16年8月、破産宣告を受けた。同センターが文部科学省に提出した報告書では、財務状況悪化の原因として、長期借入金で取得した同センターの本部ビルに関し、その償還が適切に行われなかったことや、同センターが設立した株式会社に対する貸付金が回収困難に陥った上、同センターによる債権回収の努力もなかったことなどを挙げている。また、同センターは、文部科学大臣の承認手続を経ずに長期借入れを行い、その返済について学会からの預り金を無断流用した上、当該事実について平成14年度まで財務書類に計上していなかった。このような不適切な財務運営に一部の役員のみが関与し、長期間にわたり他の理事や監事によるチェック機能が働いていなかった上、文部科学省が同センターから報告を受けるまで財務状況の問題点を認識していなかったことは、ゆゆしき問題である。
 外務省及び文部科学省は、それぞれが所管する財団法人国際教育情報センター、財団法人日本学会事務センターの破産について、なぜ破産に至ったのか、どのような指導、監督が行われてきたのか等について、主務官庁として詳細な報告をするべきである。また、所管するすべての公益法人の財務状況を精査して問題点を整理し、その上で監査体制を見直すなど指導監督の強化徹底を図り、この種事案の再発防止に万全を期すべきである。

20
 (独)科学技術振興機構の収支改善について
 会計検査院が独立行政法人科学技術振興機構の文献情報提供業務の運営状況について検査したところ、売上げの過半を占めるオンライン情報サービスにおいて、商品ごとの費用収益が的確に把握されておらず、商品ごとに収支改善計画が策定できないものとなっていた。また、収支改善計画の実施状況について検査したところ、策定された計画の見直しに当たり、事業収入が2か年間も減少し続けているにもかかわらず、収入の伸びを見込んで策定するなど、楽観的な見込みに基づいた計画を策定していた。
 同機構が平成14事業年度及び平成15事業年度に行った収支改善計画の見直しは、事業収入が減少傾向にあることを十分に反映させていないなど抜本的なものとはなっておらず、文献情報提供勘定において引き続き費用が収益を上回る状況が長期にわたって継続し、今後の安定的な業務実施が困難となるなどのおそれがあった。
 文部科学省は、同機構が、利用者の需要動向等を的確に把握し、その需要に即したサービスの開発・提供に努めるなどするとともに、提供する商品ごとの売上状況等を的確に把握するなどし、事業の実績を適切に収支改善計画に反映していくよう適切な措置を講ずべきである。

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 厚生労働省都道府県労働局における不正経理について
 厚生労働省広島労働局において、物品を購入したように書類を偽装するなどして庁費、委託費等から1億7,302万円を不正に支出し、これを別途に経理して目的外の用途に使用するなどの会計法令等に違背する事案があった。また、この不祥事案を受けて行われた厚生労働省における都道府県労働局への調査の中で、兵庫労働局においても同様の不正経理の実態が明らかとなった。これらの行為は長年にわたり組織的に行われ、いわゆる裏金として管理され、職員間の懇親やタクシー代等の費用に充てられていた。これらの不正経理に関係し、両労働局職員が逮捕・起訴されている。
 厚生労働省は平成16年8月に公表した内部調査結果において、兵庫労働局の不正経理の金額を約3,000万円としていたが、その後の警察における捜査によって、それを大きく上回る金額が不正に支出されていたことが判明し、当初の内部調査が不十分であったことが明らかとなった。これにより、この問題に関して再調査を行うこととなったが、いまだその全容解明には至っていない。
 広島労働局においては、このほかにも、職員が支出負担行為担当官及び支出官の補助者として予算執行事務に従事中、支出負担行為担当官等の決裁を受けることなく小切手等を作成し、自ら開設した他人名義の金融機関口座に国庫金を振り込ませるなどして、計2,359万円を領得した事案もあった。
 厚生労働省では、依然として厚生労働省に対する決算検査報告の指摘金額が最多となっている中、広島労働局の不正経理など厚生労働省での不祥事が頻発していること等を受け、現在、副大臣をトップとする信頼回復対策推進チームにおいて事実関係を徹底して調査しているところであるが、その調査の内容について、すべて公表するとともに、内部監査の充実等の措置を講じ、不祥事を二度と起こさない体制の確立に取り組み、この種事案の再発防止に万全を期すべきである。

22
 「総合的雇用情報システム」における随意契約に関連した厚生労働省の天下りの実態について
 全国のハローワークで求人受付、職業紹介、雇用・職業関係情報を提供している「総合的雇用情報システム」に関して、保守・運用業務を発注している厚生労働省労働市場センター業務室の元室長らが、発注先企業である(株)シー・エス・エスの役員に相次いで天下りしている。
 厚生労働省の「総合的雇用情報システム」は、昭和63年に運用が開始され、事業開始以来、同一業者(富士通(株)、(株)NTT東日本、(株)NTT西日本、(株)NTTコミュニケーションズ、(株)シー・エス・エス)と随意契約が繰り返されている政府のレガシー・システムの一つである。なお、(株)シー・エス・エスは、昭和61年に設立され、資本金5,000万円、役員8名の企業である。
 「総合的雇用情報システム」の過去3年間の総契約額は、平成13年度128億円、平成14年度154億円、平成15年度165億円の合計447億円となっているが、このうち、(株)シー・エス・エスの受注額は、平成13年度115億円、平成14年度116億円、平成15年度114億円の合計345億円で、同システムにおける同社の受注比率は、それぞれ90%、75%、69%、合計では77%に上っており、同社の受注比率の高さが目立っている。
 同社には設立以来、取締役社長を始め延べ19人の厚生労働省出身者が役員として天下っており、そのうち18人が職業安定局出身者、さらに7人の職業安定局の最終官職が職業安定局労働市場センター業務室長となっている。現在も専務取締役と取締役の2人(ともに職業安定局の最終官職が職業安定局労働市場センター業務室長)が天下っている。これまで延べ29人の職業安定局出身者が役員以外の従業員として天下っている。さらに、一部の職員が所要の承認を経ず、天下った事実は誠に遺憾である。
 職業安定局労働市場センター業務室はシステムの発注窓口であり、このような発注者による受注企業への天下りは看過できず、本件問題については、その詳細を調査する必要がある。加えて厚生労働省は、本件と同様、随意契約によるシステム発注者の受注企業への天下り状況を省内すべてについて調査し、速やか、かつ、厳正に対処すべきである。

23
 社会保障費の地域格差について
 国民医療費は、近年、横ばい傾向にあるものの、その額は30兆円を超え、多額に上っている。医療費の伸びの最大の要因は老人医療費の増加であるが、一人当たりの老人医療費については最大と最小の都道府県で約1.5倍の格差が存在している。
 市町村が保険者となっている介護保険においても、毎年給付費が増大しており、また、都道府県別に見ると、第1号被保険者1人当たりの支給額に約2倍の地域格差が生じている。このほかにも、人的要因を含めたサービスの供給体制等についても、地域格差が生じているといった問題も指摘されている。
 以上のことから、政府及び会計検査院は、地域ごとの事情を十分配慮しつつ、社会保障における地域間の財政状況・給付状況について調査・検討及び会計検査を行う必要がある。

24
 監修料について
 厚生労働省が平成16年10月に公表した全省調査によれば、過去5年間(平成11年度から平成15年度)に国庫補助金等に関する出版物等について、186件、877人、7億4,850万円もの監修料の受取の実態があり、それらが職員の深夜残業時のタクシー代や職員間の懇親等の費用に充てられていた。
 また、社会保険庁等においては、上記のほか、特定の事業者からの監修料の受取が過去5年間(平成11年度から平成15年度)で3,161万円あり、それらも職員の深夜残業時のタクシー代等に充てられていた。また、同庁においては、ほぼすべてのケースで監修作業を行った職員に代わり、各課の庶務担当者が監修料を受け取り、そこから経理課予算班の担当者に預けられるなど、監修料が組織的に管理されていた。社会保険庁の事案については、平成16年10月の全省調査の際、監修料に関するこのような仕組みの存在を明らかにせず、調査が不十分なものとなったことに対し、28人の職員が処分を受けている。
 このような実態は、国民に対して不透明な印象を強く与え、国民の不信感を一層増大、増幅させるものであり、保険料等の公費が監修料という形で職員に還流しているのではないかとの批判を招かざるを得ないものである。厚生労働省はこの問題を受け、現在、監修料等の受取を禁止しているところであるが、一刻も早い国民の信頼回復に向け、綱紀粛正により一層努めるべきである。

25
 社会保険庁における不適切な随意契約等について
 社会保険庁においては、(株)カワグチ技研と会計法令の趣旨に反する随意契約を締結するなどの問題があった。社会保険庁では、これらの問題を受け全庁調査を行ったが、この中で、100名にも上る同庁職員が(株)カワグチ技研及びその関係企業である(株)ニチネン企画から接待等を受けたことが明らかとなった。このほか、幹部職員1名が(株)カワグチ技研に対し特別の便宜を図った収賄の容疑により、逮捕・起訴されている。同庁においても、このような事態に至った要因として、個々の職員の倫理意識の問題に加え、組織の内部統制不足、コスト感覚の緩みといった問題が背景にあり、組織として極めて深刻な問題を抱えているとの認識を示している。
 また、多数の職員による興味本位の年金加入情報の閲覧、度重なる年金の支給ミス等の業務規律の弛緩とも言える事態に加え、ゴルフ練習場、ゴルフ用具やマッサージ機など、年金給付に関すること以外に税金や年金保険料を安易に使っていた問題もある。
 社会保険庁においては、これらの事案に対し厳正な処分を下すこと等により、綱紀の厳正な保持に努め、あわせて一刻も早い社会保険事業への国民の信頼回復のため、社会保険事業に係る業務について、その組織の在り方をも含め、抜本的に見直すべきである。

26
 「社会保険オンラインシステム」について
 社会保険庁の「社会保険オンラインシステム」は、約6,500万人に上る国民年金、厚生年金の加入者情報等を一元管理するシステムで、昭和42年の運用開始から平成15年度までに年金保険料などから約1兆1,700億円の金額が支出されてきた最大のレガシー・システムである。
 しかし、このシステムの調達について、社会保険庁は、システムの内容をほとんど把握しないまま(株)エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)等の特定事業者との間で随意契約を繰り返した結果、不透明な契約内容、割高な契約額となっている等の問題が指摘されている。
 例えば、(1)NTTデータ等との「データ通信サービス契約」に関して、契約書に明記されていない業務への支払が平成15年度だけで約106億円に上っていたこと、(2)NTTデータのビル内にありオンライン業務が実施されている社会保険業務センター三鷹庁舎は、庁舎の賃貸借契約が行われず、長年にわたってNTTデータとの「データ通信サービス契約」と一体的なものとして予算上の積算もないまま「通信専用料」から支払われてきたこと等である。
 「社会保険オンラインシステム」については、既に実施された刷新可能性調査の最終報告書の内容に問題があるとの指摘もあり、本システムにおける契約内容など会計面での調査を実施する必要がある。
 また、社会保険庁は、今後「業務システム最適化計画」を作成し「社会保険オンラインシステム」の見直しを進めていく中で、「データ通信サービス契約」そのものを全面的に見直し、不透明な契約内容を徹底的に改めるべきである。その際、「データ通信サービス」を解除した場合に支払う必要のあるシステム開発費用の残額約2,000億円(いわゆる残債)について、端末設備のオープン化に必要な額約165億円の解消に加えて、その他の部分についてもオープン化していく方向でNTTデータと協議し、汎用コンピュータのオープンシステム化、随意契約から競争契約への移行等の実現を図っていくべきである。

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 全農の米架空取引事件等について
 全国農業協同組合連合会(全農)秋田県本部は、平成16年に入ってからの平成15年産米の価格の下落により、入札価格が農家への仮渡金を下回ることをおそれ、卸会社と共謀して高額で落札し、直後に買い戻すという架空取引を行った。これにより引き上げた落札価格を指標価格としてその後の相対取引に反映させたというものである。架空取引分の補助金の不正受給もなされている。
 また、同本部は、米の横流し事件も起こしている。全農の100%子会社である(株)パールライス秋田が平成15年度決算において特定の取引先からの米代金の入金が滞り債務超過の懸念が生じたため、農家から販売委託されている米を横流しして簿外で販売し、赤字を埋めたというものである。横流し分についての補助金の不正受給もなされている。
 全農は、この2件の以前にも、平成13年からの短い期間に、食品の偽装表示等8件の不祥事を起こし、農林水産省から6回の業務改善命令が出されている。
 政府は、今回の2件の事件について厳正に対処するのみならず、不祥事を相次いで起こしている全農に対し、今後二度と不祥事を起こすことがないよう猛省を促すとともに、その事業を抜本的に見直す必要がある。
 不正受給が発生した全農向けの補助金についても、受給方式の見直しを検討する必要がある。
 また、米の架空取引事件については、背景に米取引の構造的な問題もあることから、公正な米取引の実現及び価格形成の適正化に向けて、取引ルールを検証するとともに、コメ価格センターへの上場数量の増加、取引結果の透明性の向上、不正行為に対する監視の強化等について検討する必要がある。

28
 核燃料サイクル費用の試算結果の開示問題について
 原子力発電所における使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを抽出し、高速増殖炉や軽水炉の燃料として再利用する核燃料サイクル政策に関し、旧通商産業省が、使用済み核燃料をそのまま地中に埋める直接処分を行った場合と再処理を行った場合との費用比較について、平成6年に試算を行っていたことが、平成16年7月に明らかになった。
 この試算資料の中では、再処理の費用が直接処分の約2倍となることが示されていた。平成6年6月の総合エネルギー調査会原子力部会中間報告書では、「直接処分方式をとることは、資源的、技術的、社会的に見て問題が多く、最終処分費の見積りが極めて不透明であることから、両路線の比較を行うこと自体が困難である」との結論に至ったものである。その後、平成16年3月の本院予算委員会質疑において、資源エネルギー庁は、日本においては再処理をしない場合のコストを試算したものはない旨答弁し、結果として事実と異なる答弁を行った。また、この試算資料の存在が明らかになった後、旧科学技術庁においても、費用比較の非公開資料があったことが明らかになった。
 政府は、国民に対する情報提供の在り方を厳しく見直し、種々の意見のある原子力エネルギーや核燃料サイクルのように国民的な関心の極めて高い分野において、幅広い視点から国民に開かれた形で議論されるよう、政策判断の根本となる重要な資料や情報の十分な開示に努めるべきである。

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 産業再配置促進費補助金の見直しについて
 工業再配置促進法に基づく産業再配置促進費補助金(以下「促進費補助金」という。)は、工業の再配置を工場等と地域社会との融和等に配慮しつつ促進するため、市町村、道府県及び企業を交付対象者として、工場の移転又は新増設と密接な関係を有する(1)環境保全施設(緑地、公園等)、(2)福祉施設(スポーツ施設等)、(3)その他の施設(販売促進・展示施設等)の整備を対象に交付されている。その交付実績は、初年度の昭和48年度から平成15年度までの累計で約1,271億円となっている。バブル崩壊後の大型経済対策が行われた一時期を除けばおおむね減少傾向が続いており、ピーク時である昭和50年度の約72億円と比較すると、平成15年度は約4億円(予算額約7億円)と1割以下の水準にまで落ち込んでいる。なお、平成16年度予算額では約5億円、平成17年度予算額では約3億円と更に落ち込んでいる。
 促進費補助金については、補助金によって整備された町の研修施設が県内企業の新設した工場から10キロメートルほども離れている、補助金申請のときは存在していた工場が交付のときには倒産していた、また、整備された施設の利用度が見込みに比べ1割以下と著しく低くなっている事例がある等の問題がある。
 さらに、東大阪市及び尼崎市については、市からの要望もあり、構造改革特別区域計画において移転促進地域からの除外に係る特例基準で認定されたことを受け、移転促進地域から除外されており、また、工業再配置促進法で求められている工業再配置計画についても、前計画の終了後、経済産業省において、いまだに策定されていない。
 促進費補助金については、その交付実績が長年減少傾向にあり、また、創設から30年超を経て、経済社会情勢が変化したことをも踏まえ、時代のニーズにこたえるべき政策という意味で柔軟に対応していく必要がある。また、平成17年度の予算執行調査で促進費補助金が取り上げられていることから、その結果をも踏まえ、財務省、経済産業省が十分に協議した上、促進費補助金を見直すべきである。

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 中小企業高度化資金の運用状況について
 独立行政法人中小企業基盤整備機構(旧中小企業総合事業団)の実施する高度化事業は、中小企業者が組合等を設立して行う中小企業構造の高度化に寄与する事業(集団化、施設集約化等)及び第三セクター等が地域の中小企業者を支援する事業(商店街整備等支援施設の設置・運営等)に対して融資を行うものであり、その主な原資は政府出資金及び債券発行により調達した資金である。
 同事業においては、(1)貸付資金残(手元資金)、(2)政府出資金を主な財源とすることによる順ざや収支差から積み上がった利益剰余金、(3)ほとんどが手元資金となっている出資事業資金が多額に上っていたため、総務省行政評価局の通知において、「資金需要の動向を踏まえつつ、余裕金の有効活用を図っていくこと」、「その際、追加出資の適切な抑制や必要に応じ更なる貸付金利の引下げ等の検討が必要」とされた。
 これを受け、旧中小企業総合事業団は平成11年度から、融資対象条件の緩和や貸付割合の引上げ、追加出資の抑制等を行ったが、事業実績は伸びず、平成12年度の余裕金は4,199億円に達しており、総務省行政評価局は、平成14年7月の通知において、改めて余裕金の有効活用のための更なる対策を提起した。
 同事業の余裕金の発生に関しては、景気の影響による中小企業の投資意欲の減退等、事業自体のニーズの問題や、中小企業者にとっての使い勝手の悪さなどが指摘されている。また、中小企業者の設立する組合の一部には、組合員の倒産等により必ずしも十分に機能していない状況や、実質的には貸付金の焦げ付きとなっている貸付金返済の停滞等が全国的に見られ、これに対し、各都道府県の対応も適切さを欠いている状況にある。このままでは、近い将来、地方公共団体や納税者に大きな負担を強いることも懸念されており、政府及び会計検査院は、調査・検討及び会計検査を行う必要がある。

31
 中心市街地における商業活性化対策の有効性について
 中心市街地における商業活性化対策については、中核であるテナントミックス事業や空き店舗解消事業等の実施に当たり、中心となるべきタウンマネジメント機関(TMO)に十分な人的体制や財政的基盤が備わっていない、ひいては本来のTMO事業の趣旨が十分に浸透しておらず、TMOに期待される本来の機能が発揮されていないとの会計検査院の報告がある。
 中心市街地における市街地の整備改善等の予算額については、国土交通省関係で平成17年度予算で事業費1兆825億円、そのうち国費負担5,369億円、平成10年度以降の総額で事業費8兆9,319億円、そのうち国費負担4兆5,821億円となっている。
 同活性化対策が、中小企業の活性化等、真に中心市街地活性化に結び付いているのか、政府及び会計検査院は、その執行の有効性について、調査・検討及び会計検査を行う必要がある。

32
 橋梁談合について
 官公庁などが発注する鋼鉄製橋梁工事をめぐり、受注に談合組織の関与が疑われ、平成16年10月、公正取引委員会は、関係会社の立入調査を行うなどして審査を行ってきたが、本年5月、独占禁止法違反の疑いで8社を告発した。告発された8社は、平成15年度にあっては他の鋼橋上部工事業者41社とともに、平成16年度にあっては他の鋼橋上部工事業者39社とともに談合組織を結成し、国土交通省の地方整備局などが競争入札により発注する橋梁工事について、不正に受注予定者を決定するなど談合を繰り返していた。
 鋼鉄製橋梁業界の年間の市場規模は、約3,500億円に上り、告発の対象となった平成15年度及び平成16年度、国土交通省の関東、東北、北陸の3地方整備局では、167件、発注総額約705億円分の競争入札が行われ、予定価格に占める落札額の割合は、両年度とも94%となっていた。
 現在、告発を受けた検察庁では、関係者を逮捕して捜査を行っており、公正取引委員会では、引き続き審査を進めているが、全容解明には至っていない。
 公共事業における入札談合は、予算の適正な執行を阻害する悪質な行為である。政府は、入札契約に係る競争性・透明性の確保の徹底、業者への指導の強化等により、再発防止と公正な競争の確保に努めるべきである。

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 JR西日本福知山線における列車脱線事故について
 本年4月、西日本旅客鉄道(株)(JR西日本)福知山線において、死者107名、負傷者549名というJR発足後最悪の惨事となる列車脱線事故が起きた。事故原因については、現在、航空・鉄道事故調査委員会等の関係機関により調査が進められているところであるが、JR西日本が経営の効率性を追求する中で安全を軽視してきたことが事故の背景にあるとの指摘もあり、再発防止策として、安全設備の整備、運行に無理のないダイヤ編成、乗務員教育の見直しなどが求められている。 
 国土交通省は、JR西日本福知山線における列車脱線事故について原因究明に努めるとともに、急カーブでの速度超過防止のためのATSシステムの整備や運行ダイヤの審査などについての政府における鉄道安全対策の在り方等が十分なものであったかを検証し、JR西日本に対して、全社的な安全意識の徹底、事故防止のための機器の整備等の安全確保の徹底を求め、再び重大な事故が引き起こされることがないよう万全の措置を講ずべきある。

34
 航空交通におけるトラブルの多発について
 日本航空(JAL)グループにおいて、管制指示違反、航空機部品の誤使用等の人的要因により安全に影響を与えるおそれのある事案が多発し、国土交通省が事業改善命令等の措置を講じたが、その後も、航空機最後部の滑走路への接触、規定違反の副操縦士による離着陸操縦など同種の事案が続いて発生している。
 また、行政側においても、国土交通省の管制官のミスにより、補修工事のために閉鎖中の滑走路に旅客機を誤着陸させるという重大な事故につながりかねない事案が発生している。
 国土交通省は、JALグループを始め航空各社に対して、社員の安全意識の再徹底を強く求めるとともに、経営陣から現場の末端まで一体となった安全確保のための取組がなされるよう厳しく監視・監督すべきである。
 航空管制業務については、管制官に対し安全意識の再徹底をすることはもとより、航空情報の処理手続やそのチェック体制を含め、安全確保の観点から徹底した見直しを図るべきである。

35
 地方都市開発整備事業の実施について
 地域振興整備公団は、大都市及びその周辺地域以外の地域で地方都市開発整備事業を実施してきたが、特殊法人の整理合理化により、平成16年7月以降、新規事業を行わないこととし、これまでの事業を都市再生機構に承継した。公団が実施した同事業について会計検査院が検査したところ、事業開始後20年以上経過しながらも多くの譲渡予定面積が残っていて事業効果の発現が著しく遅延している地区や、譲渡価格が原価を大幅に下回っているなどして多額の損失の発生が見込まれている地区が見受けられ、事業全体の採算性を確保することが困難となり、多額の損失を生じる可能性が高いことは極めて問題である。
 国土交通省は、都市再生機構において、事業の中止を含めた見直しや事業費の削減に関する計画を策定するよう適切な措置を講ずべきである。

36
 公共施設等の耐震対策について
 公共施設の耐震対策については、阪神・淡路大震災以降、種々の新たな施策が講じられてきているが、緊急輸送道路の橋梁等の耐震補強が不十分であることや、港湾における大規模地震対策施設の整備が十分に進捗していないこと等から、一層の対策推進を図る必要がある。
 政府は、(1)緊急輸送道路の橋梁並びに新幹線や高速道路をまたぐ橋梁の三箇年プログラムによる耐震補強、(2)本年3月の交通政策審議会の答申を踏まえた、港湾における大規模地震・津波対策の推進、(3)河川の堤防の耐震対策、(4)新幹線の高架橋の耐震補強について、迅速な推進を図るべきである。
 また、阪神・淡路大震災においては、昭和56年以前の耐震性が不十分な建築物に多くの被害が見られたが、平成15年現在でも4,700万戸の住宅のうち1,150万戸が耐震性が不十分とされ、戸建住宅等の耐震診断・改修に対する補助制度が創設されているものの、その利用実績が低調である等の問題がある。政府は、住宅の耐震化について、総合的な対策を早急に取りまとめるべきである。